by Mary Balogh from SIGNET(Signet Regency Romance)
舞台は摂政時代の英国 サマンサ・ニューマンはかつて、姉妹の様に育った従姉と共にデビューした年に、彼女の婚約者に恋をしたが、その男、ライオネルは彼女の従姉ジェニーとの婚約を解消するために彼女を利用しただけだった。結局ライオネルは行動に踏み切れない彼女に痺れを切らして、自分の宿敵であり、悪評高いソーンヒル伯爵、ジェニーの嫌っていた悪魔の様な男とジェニーとのスキャンダルをでっち上げたのだった。ジェニーの婚約は解消され、嫌っていたソーンヒル伯爵との結婚を強いられてしまったのだった。サマンサは自分の初恋を利用され、あげくに従姉に不幸な結婚を強いてしまったことで自分の愚かさを呪い、愛を信じなくなった。その後、ライオネルの悪行が暴露され失望した父親に国を追放され、ジェニーとソーンヒル伯爵の名誉は回復、事態は好転したものの、サマンサは結婚を拒み、やがて7年あまりの歳月が過ぎた。 彼女はジェニーを訪ねてソーンヒル伯爵の領地に滞在していた。今では伯爵夫妻は深く愛し合うようになっていて、素晴らしい家庭を築いていた。一人の時を望んだサマンサはふと隣接のカルー侯爵の領地ハイムーアに踏み入れる。そこで、彼女は風景の庭師を自称する片手、片足の不自由なハートリー・ウェイドという青年と出会う。彼は側にいるだけで大いなる安らぎを与えてくれ、彼女は深い幸福を味わったが、行動を共にしている叔母の都合で彼女は急ぎロンドンへ戻る事になってしまい、胸は張り裂けそうだった。 ロンドンへ戻ったサマンサの前に、何とライオネルが現れたのだった。父親が死に、爵位を継いで戻ってきたのだった。かつての別れの時のつれない仕打ちは、追放を予期して君のためを思ってしたこと、と言って近付く彼を彼女は信じられなかったが、本当だ、彼は更正したのだと信じたがっている自分を感じ怯えるのだった。そんな彼女の前に、ハートリーが現れ、喜びのあまり、彼女はキスを交わし愛していると思わず言ってしまう。翌日、再びライオネルが彼女のもとを訪れ、彼女が彼の魅力に脅かされた後に、ハートリーが訪れ、彼女にプロポーズしたのだった。一介の庭師と考えていたが、彼女は迷うことなく承知した。しかし、実はハートリーはハイムーアの領主、カルー侯爵その人であることを告白する。爵位という色眼鏡で自分を見て欲しくないあまりに、ハートリーは自分の素性が言えなかったのだ。それでもサマンサはライオネルへの思いから解放されることとハートリーの与えてくれる安らぎを求めて結婚を受け入れたのだった。 しかし、彼女が知らされていないもう一つの事実があった。ハートリーとライオネルが従兄弟同士だということだった・・・
アメリカでは”リージェンシー・ロマンス”と呼ばれるシリーズが通常のロマンスから独立してあります。大体はHQ程度の比較的薄目のボリュームで、ラブシーンが比較的軽い。なぜ他の時代をさしおいてこの時代だけが?といまだに謎は解けないのですが、それはさておき、この作品の作者、メアリー・バローはもっぱらこの様なリージェンシーものでの大御所の一人と言えましょう。もちろん、通常のボリュームのロマンスも発表していますが、舞台は大抵摂政時代が中心です。ただし、比較的軽いはずのラブシーンですが、彼女に限って言えば、かなり濃密で、しかもヒロインの設定がかなり癖があります。例えば、愛人関係を強要されていた過去を隠して結婚しようとする女性、生きていくために娼婦になった女性、死んだものと思われ戦地で夫に置き去りにされ、そこでゲリラの愛人にされてしまった女性。不幸な結婚をした過去を持つ未亡人など。こういう過去が無くても、夫に愛人がいたことを知って苦しむ女性、時代のモラルから夫と心のままに愛し合うことが出来ない女性など、苦悩する女性達が多いのです。封建時代が去り、領地を守る女主人という役割が失われ、形骸化された社会制度とモラルにがんじがらめにされ、結婚し、子供を産む以外に役割を求められず、生きる術を殆ど奪われ、男に頼らなくては生きていけない、彼女の描きたかったものは本当はそういった当時の女達の悲劇ではないのか、時々思ってしまいます。
追記ですが、この作品は前作があります。スピンオフが多いのもこの人の特長で、前作は何年も前に読んでいるので思い出せないのでこちらを紹介させて貰いました。(前作を辿っていくときり無いようだし) |